校長コラム

2023年7月7日

あいさつができる子を育む 3つの柱

しない理由・できない理由に寄り添う子育て

人として大切なことを、子どもの頃からしっかり身につけさせてあげたいと思うのが親心ですよね。
私も自分に子どもができるまで、あいさつを教えることがこんなに難しいとは思いませんでした。

3人の男の子を育てる母親であり、年間1.2万人が受講するキッズダンス専門スクールの校長という立場から
「あいさつができる子を育む」子育て法をご提案したいと思います。

 

1つ目の柱 −それぞれの性格の違いを理解する−

 

 

  • 生まれもって社交的な子
  • 人見知りをしない子
  • 生まれもって慎重な子
  • 人見知りな子

お子さんの性格にもいろいろと違いがありますよね。

あいさつができるかどうかには、性格も関係しています。

100人いれば、100通りの性格があり、兄弟姉妹でも性格が違います。
その子自身の性格を理解してあげて、ご挨拶ができるようにお声がけを続けることが、まず1つ目に大切なことです。

 

2つ目の柱 −あいさつをする意味を親子で理解する−

 

 

自分が指導者として子どもの前に立つ時や、スクールでこれから指導者として子どもの前に立つ新人インストラクターにも伝えていることですが、改めて「あいさつってなんでするの?」というところを、大切にしたいと思っています。

あいさつとは、短い言葉でのコミュニケーションです。
小さな子どもにとっては、この“短いコミュニケーションの時間が大切”ということになります。

例)「おはよう」
1日の始まり。
「おはよう」と笑顔で声をかけ合うと、1日が明るい気分でスタートできます。
声のトーンで、その人の元気度合いのチェックができたりもしますね。

例)「こんにちは」
家族以外の人とかわすあいさつですね。
笑顔で言葉にすることで、相手のことをどんな風に思っているか伝えることができます。

例)「おやすみ」
寝る前に家族同士や、夜に誰かと別れる際に言うこともありますね。
優しく「おやすみ」と伝えると、その人の1日の締めくくりに、あたたかい気持ちを届けられます。

あいさつの本当の意味は、「一緒にいる人に対して、お互い居心地よく過ごすためのもの」と、私は考えています。

 

私は、キッズダンス専門スクールを経営しています。

月間150クラス。
さまざまな性格や家庭環境の子たちが通ってくれています。

開講から16年。
これまで経験した中で、あいさつにこだわったクラスと、こだわらなかったクラスとの違いについてご紹介します。

 

あいさつを大切にしたクラスの様子

「なぜ挨拶は大切なのか?」
「それは人を大切にする行動だからなんだよ。」

とインストラクターが説明し、子どもたちと共に、周りの大人たちも挨拶を徹底していきます。

例えばレッスン後のシーン。

子どもたちはお腹が空いていたりそれぞれの理由で、早く帰りたくて準備を始めていても、「ごあいさつ」のシーンになると、みんな自分のことをストップして、先生の方に視線を向け、あいさつをします。

インストラクター
「今日もみんながんばりましたよ! ありがとうございました!」

子どもたち
「ありがとうございました!」

この声の大きさや声の調子に、その時間の充実度合いが伝わってきます。
そして、お迎えのご家族もまた、先生と笑顔で「さようなら〜」と帰宅していかれます。

こんなクラスで過ごしてきた子たちは、

  • 自然と他人を思いやる行動ができていきます
  • 表情がにこやかです

それはなぜか?

「ここは自分と仲間と先生を大切にする場所だと、心に染み付いているから」だと考えています。

 

あいさつを自然の流れに任せて強制しなかったクラス

16年の歴史の中では、あいあつを徹底しないと、どんなクラスが生まれるか?
強制するのではなく、自主性を伸ばそうと考えた時期もありました。

しかし、いつまでたっても、なかなか自然にあいさつが生まれることはありませんでした。

こんなクラスで過ごしてきた子たちは、比較的

  • 自分は自分、他人は他人という考え方
  • 自分が楽しいかどうかが大事、他人のことはあまり気にかけない

それはなぜか?

あいさつを通じて、他の子たちや先生とのコミュニケーションを大切にせず、ダンスをしにきている自分だけに意識が向いているので、周りのことは気になりません。
習い事は、スキルの習得以外にも、好きなことを共有できる仲間作りや協調性も学べるのに、もったいないな……と思います。

 

あいさつを徹底しなかったクラスをどう変えていったか

まずは、その場をリードするインストラクターが、「あいさつ」への理解と意識を深めます。
強制的な雰囲気ではなく「大切なことなんだよ」と、繰り返し伝えていきました。

するとどうなったでしょう…

そのクラスの雰囲気がグッと明るくなりました。
コミュニケーションの数が増えるので、ダンスが楽しいだけではなく、仲間と関わった経験もプラスされ、楽しさが倍増するんです。

 

ここまでお読みいただくと、あいさつだけでもそんなに違うのか〜と、ご理解いただけたかと思います。

それでは、ご家庭ではどう実践したらいいのでしょうか。

 

3つ目の柱 「あいさつしなさい」は禁句

 

 

非常に礼儀のきちんとされた親御さんの中には、「ご挨拶しなさい」と、お子さんに対して、しっかりしつけをされることがあります。

それは、大切にお子さんを育てられている素晴らしい行動だと思います。

ただ、お子さんに声をかける時に、保護者の方はご自身の声の調子、表情まで意識されたことはありますか?

挨拶しない側のお子さんにとっては「しない理由」もしくは「出来ない理由」があります。

「しない理由」

  • 忘れていた
  • タイミングがわからなかった

などですね。

未就学のお子さんに対しては、保護者の方が明るく「あれっ?こんな時、どんなごあいさつするんだったけ?」とお声がけされると、

(はっとした顔で)「あっ!」
(笑顔で)「さようなら〜」

と、あいさつをしてくれる子たちが多いです。

そのようなお声がけをされるご家庭のお子さんは、朗らかで自己肯定感を持ったお子さんが多いように感じます。

世の中には、「ごあいさつしなさい」と保護者の方に厳しい口調で言われてしまうお子さんもいます。

すると、

(悲しい顔で渋々と)「さようなら……」

相手に向ける気持ちよりも、「怒られて悲しい思いに包まれた」あいさつのように感じます。

このようなご家庭のお子さんは、自分に自信がなく、短いコミュニケーションのあいさつさえ、自分からできないお子さんが多いように感じます。

なぜなら、あいさつできないお相手の前で叱られ、自尊心を傷つけられてしまうからなんです。

 

「できない理由」

お子さんがあいさつをしないことに対して、「しないのではなく、できないのだ」という見方をしたことはありますか?
先にもお伝えしましたように『あいさつ=コミュニケーション』なんです。

他人とコミュニケーションを取るハードルが高い子にとっては「あいさつをしない」のではなく「できない」なんです。

お子さんができないと感じているなら、「できるようになるまで待ちましょう」ではなく、小さいうちから「あいさつができる環境へ導いてあげる」ことが大切ではないかと思います。

特に日本は礼儀を重んじる国なので、わが子があいさつができないことは、お相手に失礼だと、保護者は感じてしまいますよね。

私も同じです。
私は3兄弟の母。

しかも、キッズダンススクールの校長をしていますから、その息子たちがあいさつをしっかり出来できいなんて、顔から火が出そうなほど恥ずかしいです。

そこで、私がしてきたことをご紹介します。

まずは、私自身があいさつを楽しみ、そこから生まれる些細な会話を楽しみました。

「こんにちは〜今日は暑いですね〜」

こんな感じです。

親御さん側がしっかり礼儀正しくしていて、お子さんができていない場合、多くの大人は「ごあいさつが難しいお年頃かな?」と感じてくれることでしょう。

 

”ご挨拶が難しいお年頃”

年代別に見てみましょう。

赤ちゃん期〜年少さん初期

言葉の発達がまだまだです。
人と話すのが好きな子もいれば、家族以外の人の前では緊張感が強くなり、言葉を発せられないケースもあります。
言葉の発達に、自信をもつことができると、変化が現れてくると思います。

この時期は特に、
あいさつ→短いコミュニケーション→コミュニケーションは楽しい
そんな心の土台を、あいさつを通じてつくってあげられる時期だと感じています。

年少さん〜年長さん

社会において大切なもの=あいさつ・礼儀
あいさつが「人を大切にする行為」だと、しっかり教える時期だと思います。

どんなあいさつがあって、どんなシーンで伝えるといいか、絵本を用いるのもいいと思います。

私がやってみて効果があったのは、こんな方法でした。

母(私)
「今から、◯◯さんに会いに行きます。さて、会った時には、どんな風にするといいでしょうか?」

息子
「こんにちは〜って言う!」

母(私)
「せいか〜い! できるかな〜?」

そして、無事に挨拶ができると、

母(私)
「しっかりごあいさつできたから、笑顔になってくださったね!」

とあいさつがもたらした、良好なコミュニケーションを息子たちに言葉で伝えて、成功体験を増やしました。

小学校時期

頭の中で、あいさつが大切だということのは一般的には身についている時期かと思います。
しかし、中には、人と会った経験の数によって、まだ園児時代のように練習が必要な子たちもいます。

非常に社交的で、いろいろな人と日々交流があるご家庭と、どちらかといえば、家族で過ごすことが多い場合とでは、そもそも、あいさつをする経験値に違いがあります。

お子さんのあいさつの経験の数を増やし、習慣的にあいさつが口から出てくるように導いてあげるのがいいのではないかと感じています。

私の息子たちは、私と反対の性格で、非常に人見知りです。
あいさつが決してスムーズにできる方ではなく、まだまだ練習中で、お相手に失礼な態度を取ってしまうこともあります。

しかしある日、一人で出かけたときに、それぞれ、道に迷っているご高齢の方に、道を教えてあげることができたと教えてくれました。

あいさつ=短いコミュニケーション
の積み重ねを大切にすることで、こうした困っている人へのコミュニケーションにもつながったのかと、改めて自分自身、あいさつを大切にしていこうと思いました。

 

番外編 「ごめんね」が言えない子

 

 

他のあいさつはできるのに「ごめんね」だけ、言えないお子さんはいらっしゃいませんか?

そのようなケースは、お子さんの意志が非常に強いと親御さんが理解してあげるといいかもしれません。

わざと泣かせてしまったのではなく、自分とのやりとりがうまくいかずに相手が泣いてしまっているシーンだとします。
「ごめんね」と、言わなくてはいけないことは、本人もきっと理解していると思います。

それでも、頑なに言わないお子さんはいます。

そんなケースの場合は、私はその子の話をしっかり聞くようにします。

その子なりの言い分が必ずあるからなんです。

  • 「わざとじゃない」
  • 「向こうが泣いているけど、自分も痛かった」
  • 「先にやってきたのは向こうの方だ」

などなど、大人の想像力でその子に起こっているだろう状況を予測して、聞いてみます。

そして、理解を示してあげます。

その上で、謝ることの大切さをゆっくり伝えるようにします。

泣いていない子へ
「◯◯ちゃん、痛かったんだって。わざとじゃないけど、ごめんねって言おうか」

泣いている子へ
「△△ちゃんは泣いてないけど、◯◯ちゃんと一緒で、痛かったんだって。2人で一緒にごめんねしよっか」

こうして話をすると、頑なに謝りたくない子も、謝ろうという気持ちになってくれる場合が多いです。


よくないのは、

「あなたが泣かしてしまったんでしょ!」(決めつけ)
「ほら!あやまりなさい!」(一方的に怒る→お子さんは謝らない)
「謝らないなら、お母さんはもうあなたのこと知りません!」
(ギャーと泣き出す)
(お母さんに見捨てられるのが悲しくて、謝る)


文章で見ると、おわかりいただけますか?

親御さんは、お子さんに謝ることが大切だと教えたいのですが、謝らせる行為だけに軸が行ってしまい、本来の謝る意味を見失っているんです。

お子さんの心の中は、

「どうしてわかってくれないの?」(悲しい気持ち)

そして、親御さんに見捨てられるかもしれない恐怖に泣いて、それを避けるために謝るのです。

「こんな親御さんいる?」と思われた方は、きっとお子さんの気持ちに日々寄り添っていらっしゃるのだと思います。

この流れを見て、「あっ、やってしまってるわ……」と思われた方は、同じシーンではこのような転換の仕方はいかがでしょうか?

「何かあったの?」(決めつけ→状況の確認)
(何も言わないで、片方が泣き、片方は固まっている)
「何が起こったかわからないけど、◯◯ちゃんは、泣いてしまうくらい悲しいことが起こったんだね……」
「△△、何かしてしまったのかな?」
(何も言わない)
「この子が悲しい思いをさせてしまってごめんね……大丈夫?家でしっかりお話ししてみるね。本当にごめんね」

とその場を去ります。

決めつけて叱ってしまう親御さんのケースでは、日々「忙しい」「悪いことをしたなら、早く謝って次の行動に進みたい」そのようなバックボーンが、前者のような状況を生んでいるのではないかと想像します。

お仕事をして、家事をして、育児をして、本当に日々大忙しですよね。

でもそうしてがんばっていらっしゃる日々も、大切なお子さんのためだと思います。

ですから、
−早く謝らせる−

のではなく

−自分のために心から頭を下げて謝ってくれている親御さんの姿を見せる−
ことで、子どもたちの心に生まれる気持ちを大切にしてみませんか?

そして、お子さんの気持ちが落ち着いたら、状況を確認して、謝ることの大切さをしっかりと伝えてあげると、その状況にいる時よりもすんなり受け入れてくれると思います。

こうした行動が、お子さんの自己肯定感に繋がります。
そして、自分に自信がつき、短いコミュニケーションである「あいさつ」ができるようになります。

 

最後に…

あいさつは家庭から身につけるもの

学校や習い事など、集団生活の中で、子どもたちはあいさつを身につけていきますが、やはり、まずはご家庭であいさつを大切にすることで、土台をしっかりと作れると思います。

まずは保護者の方が「おはよう」「おやすみ」と声を掛け合うことができているでしょうか?

お子さんの前で、ご夫婦で「ごめんね」とちゃんと謝り合えているでしょうか?
(私もなかなか素直になれませんが……笑)

「ありがとう」と心を込めて伝えることができているでしょうか?

私自身、母親として、校長として、初心を忘れず毎日を過ごすことで、子どもたちに「あいさつって、人と仲良く過ごせる日常につながるんだよ」と伝えられるよう心がけるようにしています。


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